忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

クリスマス小説3


「トナカイ」という言葉が、もう「パシリ」とか「下僕」あたりにしか聞こえない。



なんてオレが思ってると、樅山がとん、と軽く肩を叩いた。
「トナカイってさ、すっごい高い身分なんだよ」


今度は何だ……。

ひゅう、と冷風がオレたちの間を通り抜ける。もっと下に着込んでくればよかった。


樅山はおっさんに目をやりながら、自嘲気味に笑んだ。


「本当は、ベテランがやるんだよ、トナカイって。でもオレ修行中の身だから自分で見つけないといけなくって」


「その、修行中の身っていったい……」


ギャァァァァァァァァンッという豪音にオレの声がかき消され、耳にわんわんと響いて一瞬聴覚が使い物にならなかった。



おっさんのほうへ目を向けると、足取りもおぼつかないままギターを抱えて、ばかやろう
!! と天に叫んでいるところだった。

 

一度静かになるも、今度は何やら口ずさみ始めた。

耳をすませばそれはおなじみのクリスマスソングで――



「真っ赤ァなおっはなァのぉぉぉーおっさんはァァァァァいっつもみんなのォォォ笑ァいモン~、あっひゃひゃははっはー!!



もういい、もういいよおっさん。悲しくなるから……。

 

 

「おじさん、おじさん」

オレが目頭を押さえていると、いつの間にか樅山がおっさんに近づいて行っていた。
一人で行かせるのがなんだか怖くて、あわてて後を追う。



「何だね少年」
おっさんは案外しっかりした口調で樅山に応じた。普通にしていれば普通の人なのになぁ……。


「これ、オレからのクリスマスプレゼント。あげるよ」
戸惑うおっさんの手に、飴を両手から溢れんほどに握らせた。

背中を向けられてるのに、樅山が営業スマイルかましながらやってるってわかる自分が怖い。




「こんなもん、いらんわ!!
おじさんは握らされた飴を樅山に投げつけた。

ばらばらとアスファルトに散らばる飴。


いくつかは樅山に当たったが、至近距離で投げられたから痛かっただろうに、樅山は痛いとも何も言わず、おっさんに向き合っていた。




「こんないい夜に、独りってさみしくない、おじさん」
樅山はゆったりとした動作で飴を拾い上げていく。


その拾った数個を、おっさんの手に押し付けた。

「オレ、わかるよ。だからせめてもの気持ち。
甘いもの食べるとちょっと暖かくなるからさ、もらってよ」

「いらんと言っとるだろうが!! このくそガキ!! あっち行け!!
おっさんは樅山の手を振り払って、ギターを手にした。



「あ、」
あのおっさんは、わかってるんだ。
樅山が……樅山が、やっていることが。

「おじさん、あのさ」

樅山が懲りずにおっさんの手をつかもうとした途端、
おっさんの目が、歌っているときのようにぎらりと歪んだ。


やばい。



「やめろって樅山!!


オレはとっさに樅山の腕をつかんで、おっさんから引き離した。
「おっさん、ごめんな、いい夜を!!

おっさんの顔をもう見たくなくて、オレは樅山を引っ張って逃走した。


おっさんがライブしてた暗い通りを抜けて、大きい道に出た。



クリスマスなんて関係ないねとでも言うような、いつもどおりの古本屋の前に、ベンチを見つけて座った。他のきらきら光っている店の前のベンチはアベック専用となっている。



中学、高校と帰宅部のオレは、走って上がった息をぜーはーさせながら、樅山の腕から手を離すと、ヤツは「あともう少しだったのに」と言ってオレを睨んできた。


「丹羽……何で邪魔したんだ」

息を乱さず笑顔で問いかけてくるこいつは心底怖い。「目が笑ってない」という表現はマンガとか小説に使うものだと思っていたが、まさかリアルに使う日が来るとは。




「お前こそ、何で、そんなに必死なんだよ」


オレの肩で息をしながらの問いに、樅山は返す言葉を探しているのか、何なのか、何も言わずにじっとしていた。


「おっさんのあの目、見てなかっただろ。
やばいってあれ。樅山、くんは」
「……樅山でいいって呼びづらいなら」

「樅山は、おっさんをもっと不幸にしてどーするんだよ」

 

 



返事は、なかった。

 



走ったせいで温まった身体が、ベンチとの接触部分から急激に冷えていく。



寒い。早く家に帰りたい。


ケータイを開けば、母からの着信履歴が数件現れた。


留守電の内容は、何やってんの早く帰ってきなさいといったところだろう。



8
30分か。早く家に帰ってこたつでごろごろしたい。

 




耳に届くクリスマスメロディは、もはや他人事だ。

小さいころって、クリスマスの日にはすごいわくわくしてたはずなのに。


それはプレゼントがあるから、という理由ももちろんあったが、それだけじゃないんだ。

あの気持ちって、なんだったんだろう。

 

 




「オレ、修行中の身なんだ」

 




唐突に、それでいて静かに、樅山が始めた。



見れば、樅山はひざの上で両手を組み、そこに額を乗せていた。

 


むかつくけど、こういう格好がサマになるヤツなんだ、こいつは。





拍手[0回]

PR

この記事にコメントする

お名前
タイトル
メール
URL
コメント
絵文字
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
パスワード

この記事へのトラックバック

この記事にトラックバックする

プロフィール

HN:
パセリ村長
HP:
性別:
女性
職業:
大学生
自己紹介:
今の表情
「パセリ生えてきた」

★今更ですが、ブログ内の絵とか写真とか文章とかの無断転用はご遠慮ください。誰もしないとは思うけど(絵とか写真とか文章的に)

風月(フヅキ)しずな で活動中。
現在過疎運営。

最新記事

(12/12)
(07/21)
(07/14)
(06/19)
(05/06)

最新コメント

[07/22 パセリ]
[07/21 希矢]
[07/15 パセリ]
[07/15 なぁ]
[07/15 まい]
[07/15 kiya]

カレンダー

03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30

フリーエリア

ブログパーツ偉人名言集MfaceレンタルWIKIメールフォームトラフィックエクスチェンジレンタル掲示板URL短縮

カウンター

時計

 

バーコード

最新トラックバック

ブログ内検索

百人一首